東京で一番最初にもらった本は、山口紹子さんの句集「LaLaLa」だった。この句集は以前、戦国洗顔史という記事を書いたときに、読んでみたい句集と書いたのだ。それを紹子さんが見てくれていたのかもしれない。

句集としては珍しい文庫サイズである。るろうに剣心24巻と大きさを比較しても、その小ささが分かる。もちろん、のだめカンタービレやハチクロ、ブリーチなどと比べても小さい。
学校に持って行ったり、授業中に読むにはちょうど良い大きさである。
さらに、装丁もなかなかよい。鉛筆にまたがった魔女なんて、紹子さんにぴったりである。実際会ってそう思った。句集っぽくないから、二人の妹も興味を示した。句集だと分かるととたんに興味をなくしたが。
さて、内容。
バレンタインの日やボクサーの頬の傷バレンタインの日に異質な傷の男。それなのに、ボクサーの傷とチョコレートが結びつくことによって確かな詩情があるように思える。
しかし、
バレンタインデーするりほどきし蝶結びは、いい句ではない。バレンタインの一言で済む言葉を17音使って言っている。バレンタインデーに残りの言葉がぶら下がって非常に重たい印象を受ける。
くらがりの雛人形に見られけりは、平凡。
ベビー靴の片方ありし沈丁花非凡。自然。漠然とした不安感。不安とは漠然としていればいるほど、非常に実感的だ。立ちこめる芳香が追い打ちをかける。
その問ひに応へずぶらんこ強く漕ぐ類想句のたぐいはないと思う。俺の知るかぎり。それなのに既視感。映画や小説で多用される風景だからだろうか。ただ、こういうの好きなんやわ。心臓がモキュモキュする。
つばくらめ空のページを捲りけり燕のくせに俺に新しい驚きを与えてはくれない。さわやかな印象は受けるのだが、そのさわやかさもやや使い古された感がある。
一方、
夕方の街は水底はなみずきはなみずきの有無を言わせぬ説得力。そうだ夕方の街は水底なんだ。ことさら新しい感覚というわけではない。ただ、花水木を持ってきての見せ方。上手いんだ。
ゆく春の両手ひらひら一輪車紹子さんはあまりいい顔をしないかもしれないが、俺に言わせると紹子さんは非常に上手い俳人である。そこらへんは第一回のロンドコロ対談でも述べているので引用する。
火尖
蟷螂のゆつくり歩む夜の柱 山口紹子 これは少し狙ったんじゃないかな?すくなくとも煙の句よりは寛也
少し狙ったかもね と感じるねこの句の場合、狙ったって言うと悪い言い方みたいやけど、まぁうまく切り取ったという意味で尖はいい句に選びましたこういうのがええ感じだ ってのを知っていて詠んだ感じがします
冒険していない感じうん、俳句的熟練。俳句的臭さの元で尚且つそれをぎりぎりで抑えているのが夜の柱。ではないかなそうそう すれすれを切り取ると面白いね
狙うんじゃなくて 切り取るというか 授かる(山頭火のように)この句は蟷螂がゆっくりと「夜の柱」をあるいてんねん。俳人ならいいと思うやろ?という共感を得る狙いはあるな。また、そういう上手さ。そうやねぇ 狙ったなぁという感じと 上手いなぁという感じ その差が妙やね無理なく自然に届く句が多い、俺はそれを支えているのが上手さではないかと思った。例えば「はなみずき」の句がそうである。しかし上手さというのは、テクニック的なものでもあるから、表現が最大公約数的なものになると、一気に古くさく退屈に見えるのである。雛人形の句がそれであろう。
万緑のどこに不時着しませうかとっても素敵な句!鉛筆魔女のサイクリングである。もちろん上手いだけの作者じゃないってことはこの句で十分わかるんじゃないかな。
旅といふ非日常にをり大夕焼俳句教室的。
黒南風や寝違へし首持ち歩くいいわぁ。説明すんのめんどくさいけど、説明します。これ、いい句やねん。俳人って何となくこんな評の仕方を繰り返してるような気がする。この句のよさは季語の斡旋と、「持ち歩く」の把握。
以下、私の好きな句と嫌いな句を織り混ぜて。
緑陰に水煙草吸ふテロリスト
秋扇聞いてゐるのかゐないのか
大文字遠くにありて火の匂ひ
いちまいの空干されあり野分あと
ひと夏の重さの簾はづしけり
桃匂ふ睡りの淵に沈むとき
チェロになり抱かれてみたき月夜かな
虫の音に包囲されたるふたりかな
無花果や言ひすぎしかとふと思ふ
縫ひ針の耳のきんいろ冬隣
空港の大きな時計冬ざるる
考へてをれば落葉の降りやまず
波郷忌や酸素あふるる空の色
魔女長きスカート蹴つて十二月
マフラーの中へ埋めし言葉あり
なにもなきこと美しき冬田かな
折れさうな日本列島寒に入る
戻れないやうな気がする雪催
寒晴や掃除機くるくる連れ歩き
水鳥の嘴のよごれよ春近し
半分以上が好きな句です。この絶妙なバランス
いいなぁって句が一つあると、よくないなぁって句が出てくるねん。
この絶妙なバランス。いい。
とても楽しく読みました。よい句集をありがとうです。
テーマ : 俳句 - ジャンル : 小説・文学