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受賞作を作ろう

尖の所属結社「炎環」にはですね、炎環賞という結社賞がありまして、未発表20句で応募するんです。
賞金とかはないんですが、尖は欲しいんですよ、炎環賞。

ということで、獲ろうと思います。
ただ、闇雲にね、自信のある俳句をそろえても、獲れるかどうか分からないじゃないですか。
だからね、過去の受賞作の傾向、選考会の基準なんかを分析、考察して対策を練ることが必要だと思うんです。
今年は選考委員の若返りを図るとのことで、選考委員の交代があるので、なんとも予想はつきませんが、
とりあえず、炎環2008年11号の選評と入選以上の作品で、受賞作に必要なエッセンスを抽出してみよう。

ちなみに、2008年は受賞該当作なしの佳作二編、
山口紹子さんの「わが町」
新井みゆきさんの「東京ライフ」
他に入選六編が選ばれたのみでした。


?選考委員の発言から探る、炎環賞に求められるもの及び条件
炎環賞の選評であるが、座談会形式ではなく、各選考委員別の総評という形で載っている。受賞作を決める経緯を知ることができないのが残念だが、いくつものヒントを得ることができた。
もっとも大きな収穫は、選考委員共通の選句傾向があったことだ。それは「驚き・冒険・思い切り・挑戦」と「テーマ」である。当然主宰が言うある程度の完成度は求められるが、この二つを兼ね備えることが受賞の条件と言っても差支えないだろう。
しかし、それだけではない。読み進めていくうちに驚くべき新事実を発見したのだ。裏基準の存在である。そのことを端的に示す一文がこれだ。吉田悦花編集長の総評前文にある
「テーマ性を重視した十三編の水準は高く、甲乙つけがたい。それだけに炎環賞にふさわしい突出した一遍は、残念ながら見当たらなかった」
これは、つまり、周りの作品レベルに左右される側面もあるということだ。
まとめると、「驚きがあり、首尾一貫したテーマがあり、他の作品とは隔絶していること」となる。次は応募作品を見ていこう。選考委員の言う、質の高さとは何なのであろうか。

?炎環賞応募作の特徴
佳作となった「わが町」「東京ライフ」は日常詠が基本となっている
それぞれ
クリーニング屋の蒸気の匂ひ半夏生  わが町
すぐ行きます金魚の水を換へてから

天井に影うまれ地下あたたかし  東京ライフ
夜の秋アルミホイルの落とし蓋 

に魅かれるも確かに驚きに欠け、クライマックスとも言うべき句が見当たらなかった。
日常というテーマを持ち、なおかつ水準が高いのだが、残念なことに俳句の向きが揃いすぎているのである。ここにテーマにおける難しさがある。
入選作以上はどの作品もテーマがあるのだが、テーマがあることがかえって作品群にとってマイナスに働いているようだ。そこから少し抜けだした印象を受けるのが、入選作品、常盤優さんの「沖縄時間」である。
選考委員の一人丹間美智子さんは「「沖縄時間」を除いては、驚かされるものはなかった。」「作品の質はもとより構成の緻密さで群を抜いていた」と激賞している。

三伏の首里城火星大黄雲   沖縄時間
夏ぐれや指笛一度だけ鳴らし

沖縄の夏を読んだものだが、20句で表現された時間の経過がスムーズでタイトルも表題句からの切り取りだけにとどまらない意味をもっている。ただし、それでさえ「決定打に欠ける」という理由で受賞を逃している。
しかし、三伏の句の取り合わせは十分驚きであるし、夏ぐれの抒情性も捨てがたい。そしてこのような力作は入選作のどれもにあるもので、それぞれの句には驚きがあり、完成されているのだ。しかし、テーマ性をもった作品として20句を読むと、明らかに色あせてしまうのである。


参考までに各作品から尖の注目する句を抜きだす。

ばうばうと湊の汽笛年逝けり  わが町

中庭へ椅子運びだすイースター  東京ライフ

秘めごとのあとの点灯守宮鳴く  沖縄時間

石仏の何処へ崩れ霜二寸  何処へ 宮川瘤太

返信の赤き絵文字や五月来る  海越えて 壬生きりん

青き嶺いま死なぬ人集まれり  アバスチン イザベル真央

ガンジスの黎明ボートのぶつかり合ひ  黎明 田村葉

人は瓜喰み考へる葦となり  一茶の墓 峰村浅葱

?受賞作を作ろう
選考委員が求めるものは「驚き」と「テーマ」であり、応募作も「驚き」と「テーマ」を備えたものであった。しかし、テーマが作品の驚きを薄め、驚きの薄さがテーマの力を削ぐという悪循環に陥っている。「沖縄時間」にしても、テーマが疵にこそならなかったものの武器になるまでには至らなかった。これが「レベルは高いが突出したものもなかった」ことの原因でもあろう。
ようするに、この悪循環を逆転することができれば、他の作品との差別化を図れるはずである。
従来の一つの背景で20句を編む方法ではなく、読み進めていくことで一つの感興を湧き起こすものこそ、「テーマ」のある俳句ではないだろうか。テーマは目的ではなく手段としてこそ力を発揮するのだ。その方法ですぐ思いつくのが二十句にストーリー性を持たせることだが、しかしそれは小説の土俵であり、尖はそれをしない。あくまでも一句独立の俳句の強さを信じたいし、他の句によりかかるようではもう一つの受賞基準「驚き」を与えることができない。しかしながら、ストーリーを作るのではなく、読者に作らせる、これは大いに試してみる価値があるように思う。
そこで重要な役割を果たすのが「タイトル」である。
応募作62編の内、季語そのものをタイトルにつけたものは全部で10編あるが、その中で本選でとられたものは3編しかない。そしてその3編は入選には至らなかった。俳人にとって季語こそもっとも強力な詩的言語である。それをタイトルにもってくれば作品がかすんで見えるのは当然のことだ。その上、俳人にとって季語自体は見飽きたものなのだ。一番最初に目にするタイトルで、既に読者は判断を下すのである。そこで、読者を引き込むことができれば、「テーマ」の8割は成功したものとみていい。あとは勝手に読者が都合のよいストーリーを作ってくれるよう、一番最初の句と最後の句付近に一番のクライマックスの句を持ってくればよい。クライマックスの句は多少情感に流れていた方がいいだろう。その句を渋い位置(二句となりくらい)から基本に忠実な句で固めれば、読者はその句を拠り所にして起伏にとんだストーリーを流しこむことができる。この起伏こそが作品本来の驚きに加えられるテーマによる驚きであって、これにより他とは一線を画した作品ができるはずである。


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テーマ:俳句│ジャンル:小説・文学
炎環 | コメント(0) | トラックバック(0)2009/02/19(木)12:50

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kasen

Author:kasen
1984 11 生まれる。
2005 03 俳句を始める。
2006 01 炎環入会

好きな食べ物・ラーメン
好きな建物・図書館
好きなのは言葉。

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